日本初?本格的ナチュラルホルンアンサンブル始動

ナチュラルホルンって何?

モーツァルトやベートーヴェンの時代のホルンは、今日のホルンのような弁のついていない、ただ真鍮の管を巻いただけの楽器でした。

それより遡るバロック時代(ホルンの誕生したころ)には、唇の操作だけで音を変えていたのですが、古典派の時代になると、ベルの中の右手を塞いだり微妙な操作をすることにより半音の違いまで吹き分けていました。

19世紀になると、この右手のハンドストップ奏法に磨きがかかり、作曲家たちもそのオリジナリティに富む音色と表現力に魅せられ、ホルンを生かす作品を生み出してゆきました。

実は、オーケストラ作品のかなり多くの作品は、この今日ナチュラルホルンと呼ばれている無弁のホルンのために書かれたものなのです。

ナチュラルホルンを知らずしてホルンについて、音楽について何を語ろうぞ!

〈ナチュラルホルンアンサンブル東京〉はナチュラルホルンとその演奏の普及を目的として2016年に結成。日本初のプロフェッショナル奏者によるナチュラルホルンアンサンブルグループである。略称は「ナチュホ東京」。

 メンバーは大野雄太(東京交響楽団)、大森啓史(千葉交響楽団)、下田太郎(THE ORCHESTRA JAPAN)、塚田聡(東京フィルハーモニー交響楽団)、伴野涼介(読売日本交響楽団)、藤田麻理絵(新日本フィルハーモニー交響楽団)といったモダンホルンでも一線で活躍するナチュラルホルンの魅力にとりつかれた6名。

 コンサートは年1回を目標に2017年2月に第1回。2018年3月に第2回。2019年2月に第3回のコンサートを開催。また、2017年12月に日本ホルン協会主催「ホルンフェスティバルin秋田2017」にゲストとして招かれ、同じくゲストの世界的ソリスト、ハヴィエル・ボネット氏との共演も実現した。

 演奏だけでなく、ナチュラルホルン演奏の普及のためにレクチャーとナチュラルホルンのアンサンブル&オーケストラスタディ体験を軸にした交流会(そして宴会)を2018年9月に実施し、今後も同様のイベントを計画していく予定。また、永江楽器水戸の協力のもと茨城県央のアマチュア・中高生へのレクチャーとミニコンサートも行っている。2021年3月には初めての試みとなる「ナチュラルホルンキャンプin水戸」を成功させた。

 2019年3月27日にはスペースDoで、オリヴィエ・ダルベレイ氏(ベルン響首席、バーゼル室内管ソロホルン、ルツェルン音大教授)と共演。

 結成時から、しばしば開催される話し合いの会場がなぜか「銀座ライオン池袋西口店」である確率が高い。ビールを飲むことも大好きなアンサンブルである。

 これまでの活動歴をこちらのページにまとめています。

 メンバーのプロフィールはこちらのページまで。

管楽器専門月刊誌〔パイパーズ〕2019年2月号に掲載された記事より

 

Natural Horn Ensemble Tokyo

 

日本初(?)のプロ奏者によるナチュラルホルンアンサンブル2月に第3回演奏会

 

ナチュラルホルンアンサンブル東京

 

 「ナチュラルホルンアンサンブル東京」(略称「ナチュホ東京」)は、ナチュラルホルンとその演奏の普及を目的として2016年に結成された、おそらく日本初のプロフェッショナルなナチュラルホルンアンサンブルです。モダンのオーケストラや、古楽器の団体などでもよく顔をあわせるメンバーで数年来「ナチュラルでアンサンブルしたいよね」と言っていたものが、なにかの勢い(宴会?)に後押しされて結成しました。

 メンバーは大野雄太(東京交響楽団)、大森啓史(千葉交響楽団)、下田太郎(THE ORCHESTRA JAPAN)、塚田聡(東京フィルハーモニー交響楽団)、伴野涼介(読売日本交響楽団)、藤田麻理絵(新日本フィルハーモニー交響楽団)といった、モダンホルンでも一線で活躍するナチュラルホルンの魅力にとりつかれた6名。

 コンサートは年1回を目標に2017年2月に第1回、2018年3月に第2回のコンサートを開催。また、2017年12月には日本ホルン協会が主催した「ホルンフェスティバル in 秋田2017」にゲストとして招かれ、世界的ソリストのハヴィエル・ボネット氏との共演も実現しました。

 演奏会だけでなく、ナチュラルホルン演奏の普及のためにレクチャーとナチュラルホルンのアンサンブル&オーケストラスタディ体験を軸にした交流会(そして宴会)を2018年9月に実施し、今後も同様のイベントを計画していく予定です。永江楽器水戸の協力のもと、水戸地域の中高生へのレクチャー・ミニコンサートも行っています。

 これまでの主な演奏曲目はA.ライヒャ「24の三重奏曲」より第1集(第1曲~第6曲)、第2集(第7曲~第12曲)、A.リヒター「3本のホルンのための6つの小品」、同「4本のホルンのための6つの小品」、B.クロル「Basler Romanze」、L.-F.ドープラ「6つの三重奏曲」、J.-F.ギャレ「大四重奏曲」、F.シューベルト「5つの二重奏曲」、H.ジムロック「二重奏曲集」より、ほかナチュラルホルンのために書かれた古今の作品。またW.A.リュートゲン「四重奏曲」、C.エーストライヒ「四重奏曲」など、ナチュラルホルンのためか定かではないグレーゾーンの曲にも取り組んでいます。

 

2月のコンサートの聴きどころ

 

 来る2月26日(火)にスペースDoで行う第3回コンサート(午後7時開演)では、引き続きライヒャの「三重奏曲」から第3集(第13曲~第18曲)を取り上げます。(2020年に開催予定の第4回コンサートで第4集(第19曲~第24曲)を取り上げて全曲が完結する予定です。しかも、この年は偶然にもライヒャの生誕250年という節目の年です)。

 また、エチュードで有名なG(ゲオルク)・コプラッシュの父親であるW(ヴィルヘルム)・コプラッシュの「大二重奏曲」よりや、P.I.チャイコフスキーの「4本のホルンのためのアダージョ」も取り上げます。チャイコフスキーのこの曲は、ナチュラルホルンのための曲であるか定かではない短い習作のような曲ですが、ドープラやギャレの曲のように各パートに違う管が指定されています。ほかにG.ロッシーニの「5つの二重奏曲」やドープラの「6つの四重奏曲」、A.ベッローリの「小四重奏曲」などがプログラムに組み込まれています。

 

何管で吹くか?

 

 ナチュラルホルンアンサンブル東京で使用しているナチュラルホルンは、19世紀に多く使われていたクラシカルのハンドホルン(クルークを替えることによって調(管長)を変えるオーケストラタイプのインヴェンション・ホルン)ですが、ヴァルブホルンに比べると確かに制約・不自由はあり、とくに低音域は演奏困難なことが多くなります。しかし、ベル内の右手によるハンドテクニックによるオープンとストップの音色の違いが、逆に音楽的な表情を生むこともあり、それが味わいになるのも確かです。

 ホルンアンサンブルでライヒャなどドイツ・ボヘミア方面出身の作曲家の曲を演奏する場合、各パートを同じ調の管で演奏することが多いのですが、そもそも作曲家による管(調)の指定がないことも多く、何管でやるかを決めることも音楽的に重要となってきます。たとえば、管が長くなるほど音色は落ち着き、良くも悪くも輪郭は不明瞭になりますが、F管とEs管と比べても、全音分しか長さが違わないのに、音色はかなり変わりますし、F管とD管を比べるとさらに変わります。管の選択によって調性と音色が決まり、曲の雰囲気が大きく変わるのです。

 逆に、フランスのドープラやその門下であるギャレは管を指定しています。しかも各パートを違う管で。このため、各管の音色の差も見えてきますし、曲の調に「向かない」管にあえてメロディーを吹かせたりもしますので、不思議な表情が現れてきます(作曲家がそれを意図したかは別として)。

 いずれにしても、「管の長さによる音色の違い」は、均等な音色を目指すモダンのホルンよりも明らかに感じ取れます。一般的なクラシカルホルンは、円筒部ボアが11mmちょっとと、モダンのホルンより1mm弱細いので、音量による音色の変化もより大きくなります。モダンのホルンが獲得した表情の裏で、失われてしまった表情を感じることができるのがナチュラルホルンの醍醐味ともいえるでしょう。

 また、当時は作曲家自身がプレイヤー・教師であり、自身や生徒のために書いた曲が多く、名手といわれた奏者に捧げられた曲も少なくありません。そしてこれらの曲を見ると当時のホルン奏者のレベルの高さもうかがえます。

 ちなみに、メンバーが使用する楽器は細ベルのフレンチモデル、太ベルのボヘミアンモデルどちらもあり、とくに統一はしていませんが、いずれも19世紀前期・中期ころの楽器のコピーモデルです。マウスピースもナチュラル用。バロックホルンを所有するメンバーもいますので、今後バロックや前古典の作品にも取り組みたいと考えています。

 

管楽器専門月刊誌〔パイパーズ〕2019年2月号に掲載された記事から